「鋼の錬金術師」と科学の原罪

先日4月26日(日)の夕方に放送されたアニメ「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」ですが、少し考えさせられる内容でした。
このアニメは、「物質を理解、分解、そして再構築する、この世界で最先端の学術」である「錬金術」の専門家=錬金術師が主人公となっている物語です。
錬金術は、最先端の科学だった」というのは、科学史の観点では常識的な見方になるのかな。というわけで、「コードギアス」や「機動戦士ガンダム00」などに比べて、それほど興味をもっていたわけではないのですが、人気になっているのも事実で、気にはなっていました。

今回は、第4話「錬金術師の苦悩」というサブタイトルで、ある錬金術師が登場しました。それが「綴命の錬金術師 ショウ・タッカー」です。
タッカーは錬金術を駆使して、二種以上の生物を用いて合成獣(キメラ)を生み出す研究をしている。とくに「人語を使う合成獣」を生み出したことが認められている。

ところが…(以下、若干のネタバレを含みます)


タッカーの研究成果である人語を使う合成獣(キメラ)。
それを生み出すために、どんな生物を用いたのか。
物語が進行して明らかになったのは、「人間」を材料にして「合成獣」をつくりだしていた、ということです。

ここに、動物実験と人体実験をめぐる科学の進歩と犠牲についての「悩み」が描かれるのです。

人間(それも自分の娘)を材料にして合成獣をつくりだしたことを知った主人公は、タッカーに詰め寄ります。
それに対するタッカーの言葉。

主人公エドワード・エルリック
「そうだよな 動物実験にも 限界があるからな」「人間を使えば 楽だよなあ ああ!?」

タッカー
「は…」「何を 怒る事が ある?」
「医学に代表 されるように 人類の進歩は 無数の人体実験の たまものだろう?」
「君も 科学者なら…」

主人公エドワード・エルリック
「ふざけんな!!」「こんな事が許されると 思ってるのか!?」
「こんな…人の命を もてあそぶような事が!!」

荒川弘鋼の錬金術師』2巻(ガンガンコミックス)より)

このやり取り、原作コミックスではわずか半ページですが、科学の進歩と犠牲とを考えるうえで、とても興味深かったです。(アニメでは、「医学に代表されるように」という部分は省略されていました)

「人の命をもてあそぶ」のかもしれないけれど、人体実験をすべて否定したら医学は進歩しない。
タッカーの言葉は、悩み抜いた錬金術師=科学者の開き直りにも思えるけれど、そこには、真実があるのかもしれない、とも思わせるものです。
「目の前に可能性があったから 試した!」「たとえそれが禁忌であると知っていても 試さずにはいられなかった!」
いずれも主人公の「過去」に重なるタッカーの発言なのですが、科学の「業」あるいは「原罪」を感じさせるシーンでした。
今週の放送を(ワンセグで)みて、「鋼の錬金術師」への興味が一気に増しました。
こういう「深み」を垣間見せる物語だからこそ、人気になるのかな。

人体実験をめぐる生命倫理(バイオエシックス)の議論への導入として、授業でも採用してみようかな。

TVアニメ「鋼の錬金術師」公式サイト

今回のエピソードは、原作コミックス2巻に「第5話 錬金術師の苦悩」として収録されてます。

鋼の錬金術師(2) (ガンガンコミックス)

鋼の錬金術師(2) (ガンガンコミックス)