悪いジョーク?

エイプリルフールには1日遅れてしまいましたが、こんなジョークサイトが…

3月25日付ロイター配信のニュースで知ったのですが、サイトのタイトルはズバリ、「sell kidney online」。
今回の経済危機、でも「あなたにはチャンスがあります!」と。腎臓は$70000-80000で売れるので、これで負債も返済できますよ、と。
もちろん、こんなことが書かれているこのサイトは、ジョークサイトです。
ちゃんと「このサイトについて」のページに、臓器売買は違法であること、そしてこのサイトはジョークサイトだと明記されています。
ただ不思議なのは、ジョークサイトだと明かしているaboutのページには目立つように、「Withdrawing of organs for transplantation is out of law. Transplantation is illegal in Russian Federation and in most of other countries. So, Withdrawing of organs from your body is an illegal operation.」とあります。
えっ?ロシア連邦や他の多くの国々では臓器移植は違法行為?

もちろん、これは生きている人からの臓器の摘出のことを言っているわけですが、一瞬、びっくりしました。

このサイトにはロシア語版と英語版がありますが、ロイターの記事でも紹介されている通り、もとはロシア語のようです。
ということは、ロシアでは臓器売買がブラックジョークになるほど身近ということ?それとも、富裕層が移植ツーリズムで、国外で売買した腎臓を移植しているのか?

このサイトをめぐるその後の顛末は知らないのですが、ジョークで済まされないような内容ですね。



ちなみに、2008年5月に国際移植学会で「イスタンブール宣言」が採択されました。この宣言では、臓器売買や移植ツーリズムに反対し、それらをなくす努力の必要性が主張されています。(日本移植学会のサイトイスタンブール宣言の和訳がPDFでアップされています。(サイトの左側メニューを参照))
臓器売買は臓器を売る貧困層を救うものでは決してないし、2008年に公開された映画「闇の子供たち」や、その原作をあげるまでもなく、移植ツーリズムで「ドナー」とされるのは違法な人身売買の被害者(児)たちではないのか、と危惧されます。
イスタンブール宣言は、臓器売買や移植ツーリズムはダメ、だから、それぞれ自国内で合法的な死体臓器移植を増やしましょう、という論理です。
でも、臓器売買が根絶されない理由は、まず第一に、そもそも臓器移植という医療が「ドナー」という第三者を必要とし、臓器移植を受けたいと思っている人に対して、提供される臓器の数が圧倒的に不足しているという状況があります。そして臓器を売らなければ生活できないような貧困層がいる、ということも大きな理由になります。

イスタンブール宣言に依拠して、日本でも「臓器の自給自足」が必要だといわれています。
それでは、(臓器をモノのように捉える気持ち悪い表現ですが)「自給自足」に必要な「臓器」の数、さらには「ドナー」の数は、どのくらいなのだろうか。現在、臓器移植法の「改定」が取り沙汰されていますが、法律を変えれば「自給自足」が実現するのだろうか。こうした疑問は尽きません。
小松美彦脳死・臓器移植の本当の話 (PHP新書)』にもある通り、そもそも「脳死」が人の死と言えるのかどうかは、現在でも議論のあるところです。
三者の犠牲の上に成り立つ移植医療だからこそ、ドナーの人権は侵害されてはならないはずです。その意味で「臓器の自給自足」という表現は、「臓器」をモノのように考えているだけではなく、「ドナー」を「臓器」の供給源としてしか見ていないような表現、つまり言葉によってドナーの人権を侵害しているように思えてしまいます。そして、こうした表現を何の疑いもなく使っているのを見るたびに、「ドナーの人権」を重視することの大切さを感じます。

もちろん、移植を待ち望む人々の苦悩が減じることは望ましいことだと思います。けれども、それと同時に、ドナーのことも考えねばならないはずです。マスメディアでの表現も含めて、「脳死臓器移植」の問題はもっと注意深く考えてゆくべきだと思います。