「臓器移植法改正」論議の論点整理

新たな「改正案」(D案)が12日にも提出されるとか、WHO総会の会期短縮にともなう臓器移植関連の決議先送りなどで、また少し局面が動き始めた感のある「臓器移植法改正」論議です。
WHOの指針採択先送り関連のニュース
   http://www.nhk.or.jp/news/k10015830361000.html
   http://mainichi.jp/select/today/news/20090508k0000m030127000c.html
世界の保健医療においては、新型インフルエンザ対策が緊急の課題であり、移植医療は1年先送りしても構わない議題だ、ということですね。

そうとはいえ、ここ数日、地上波やBSなどテレビ番組でも、臓器移植関連のものがありました。
ただ、いくつかの論点が混在したままという感じもしたので、改めて、論点を整理しておきたいと思います。
今回の大きな論点(というか「改正」の目的)は、次の3つ(ないしは4つ)ではないでしょうか。

  • (a)臓器提供数の増加をめぐって
  • (b)子どもの臓器提供をめぐって
  • (c)生体移植をめぐって
  • (d)その他

これらに、次のような論点が絡み合っているのではないでしょうか。

  • (ア)「脳死は人の死」をめぐって
  • (イ)渡航移植自粛を求めるWHOによる指針(採択先送り)への対応
  • (ウ)「脳死」をめぐる議論の進展
  • (エ)提供者による生前提供先指定

たとえば、(a)臓器提供数の増加を目指した「改正」の文脈で、「外圧」の1つとして(イ)WHO指針が挙げられることになります。
もし(イ)WHO指針への対応を目的とした「改正」ならば、今回の「指針採択先送り」によって、「改正」の目的は失われるハズです。(少なくとも今月中に急いで本会議で改正案の採決する必要はなくなる)
ところで、この渡航移植の自粛が緊急の課題となっているのは、臓器売買などが絡んだ「移植ツーリズム」を規制するためではないでしょうか。そのための渡航移植の自粛であり、自国内での臓器提供の促進が求められるわけです。このように考えれば、現行法第11条の「臓器売買等の禁止」を徹底すること、また現行法の枠組み内でのさらなる普及啓発活動の促進(ドナーアクションプログラムの拡大、移植医と救急との連携など)でも対応できるのかもしれません。こうした対応では不十分だ、というときには、やはり(a)臓器提供数の増加が念頭に置かれているように思います。

(ア)「脳死は人の死」をめぐる論点も同様です。いわゆる改正案A案では、臓器提供数を増やすために「一律に脳死は人の死とする」のではないかと思われます。この(ア)の論点については、また改めて。

というわけで、この(a)臓器提供数の増加という目的なのですが、「臓器の需要と供給のバランス」は世界的に「供給不足」です。どんなに臓器提供数を増やしても、「需要」には追いつかないのです。世界最大の臓器移植大アメリカでは、他の国々に比べて異常なほど移植件数が多いのですが、それでも「需要」が満たされ「供給過剰」になりことはありません。そこを見落としてはならないと思います。

(b)子どもの臓器提供をめぐる論点は、改めて。