運転免許の更新で思ったこと〜脳死臓器移植の「普及・啓発」活動?

誕生日を1ヶ月ほど前に迎え、気づけば運転免許の有効期限が迫っていたので、慌てて免許の更新をしてきました。「優良」ということで(ここ数年は運転する機会が激減中)、地元の警察署での免許更新でした。

運転免許証がICカード化されていたりとか、新しい免許証の写真がちょっと気に入らないとか、安全講習を担当した方は「天下りだろうか?」と考えたりとか、いろいろあったのですが、「臓器移植法改正」論議の真っ只中だったので、脳死臓器移植に関する「普及・啓発」のための活動として、どのような状況なのか、(やや皮肉を込めて)どのような「改善策」があるのか、を考えてしまいました。


講習で視聴したビデオでは、トラックの死角を走行中のバイクに気づかず右折したり、巻き込み確認を怠って左折したり、スピードの出しすぎや夜間の危険性、疲労や睡眠不足の危険性、睡眠障害の存在、酒気帯び運転での判断力の欠如など、いろいろな事例が取り上げられていました。
「事故」を起こすと、被害者はもちろん、ドライバーやその家族がいかに「不幸な人生」を送ることになるか、ということが繰り返し強調されていました。これだけ「不幸な人生」の例を見せられれば、安全運転を心掛けずにはいられません。

そんなビデオを見ながら、不謹慎ながら考えてしまったのは、「本気で」脳死臓器移植の「普及・啓発」を行うのであれば、こうした安全講習のビデオにも変更があるのかな、ということでした。
例えば、「もし万一、事故を起こしてしまい、あなたや同乗している家族が脳に重傷を負って脳死状態になってしまっても、臓器提供をすることによって救われる命があります」というメッセージも加えられるのかな、と考えてしまいました。

現在、衆議院で審議中の「臓器移植法改正案」のうち、いわゆるA案、B案、D案には、運転免許証や健康保険証に「臓器提供意思表示」ができるようにすること、移植医療に関する教育や普及・啓発活動の推進が求められています。(この点についての「改正案」の比較は、WHO移植指針との比較も含めて、5月25日のエントリーで行っています。)

講習ビデオで「啓発」すれば、きっと、その場で「意思表示」を記入する人もいるのではないかと思ってしまいました。

というわけで、一応、免許証に貼付できる「意思表示シール」を探したわけですが、すぐには見つからず、係の人に聞いて、ようやく見つけることが出来ました。「臓器提供意思表示シール」は、すぐにはわからないところに置かれていて、こうやって声を掛けなければわからないような状況だったわけです。さらに、その警察署には、小冊子などもなく、ただ、「シール」だけが置かれていて、そのシールを手渡されただけでした。(対応してくださった方は、午後5時を過ぎていたのに笑顔でした。)

過去に事故や違反がほとんどない優良運転者(というか頻繁に運転しない人?)だけを対象にした更新手続場所なので、脳に損傷を受けるほどの「事故」とは縁遠いのかもしれません。それでも、小冊子やパンフレットくらいは置いてあると思っていたので、こうした状況を目の当たりにすると、現行の「臓器移植法」の提供条件が厳しいからそれを緩和するのではなく、現行法の枠組みのなかでも、もっと「努力」が可能なのではないかと思ってしまいます。*1

僕個人は、臓器移植を積極的に推進すべきと思えない理由もあり、普及・啓発活動をもっと「改善」しろ、という主張をしたいわけではありません(そもそも「脳死」についての誠実な情報公開が少ないという意味では、もっと「改善」して欲しいとは思います)。それよりも、「臓器提供者が増えないのは法律の提供条件が厳格だから」という見方や主張に基づき法律の「改正=提供条件緩和」に向かうのは、「努力の方向」がちょっと違うのではないか、と思うのです。
法律に「普及・啓発」に関する条文を書き込むことで、様々な管轄省庁への圧力にしたいという意味があるのかもしれません。とはいえ、今回の「改正」論議は、「子どもの臓器提供」と「(全般的な)臓器提供数の増加」などの目的が混在し、「改正案」もそれらが錯綜しているので、余計に「わけがわからない」とか、(5月30日のエントリーでも触れた「朝日新聞」5月27日夕刊の「比較表」のように)過度に「単純化」することが起きるのだろうな、と思っています。

いずれにせよ、運転免許の更新手続きに際して「脳死臓器移植」について考える人なんて、たくさんいない、ということを強く感じたわけです。

もちろん、(過去の自損事故を思い出しつつ)より一層、安全運転を心掛けようと思ったし、「初心者マーク」や「高齢者マーク」だけではなく、「聴覚障害者マーク」や「身体障害者マーク」があることを知ったり、「中型免許」が新設されて自分の「普通免許」も「条件つきの中型免許」になったことを知ったり、いろいろと勉強になった30分ちょっとの運転免許更新手続きでした。

※追記
衆議院の厚労委員会での審議は次回で打ち切り、最短では再来週にも衆議院本会議での採決というスケジュールになるそうです。採決の前に、厚労委員会から本会議へ、どのような報告がされるのか、気になるところです。
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090603/stt0906031953009-n1.htm

*1:「交通事故」と「臓器提供」を結びつけて積極的に臓器移植を「推進」することは、全国交通事故遺族の会の主張と反するものです。全国交通事故遺族の会「脳死・臓器移植法改正反対」を参照。また、「交通事故」が減ることで、(臨床的)脳死状態になってしまう人の数が減り、脳死からの臓器提供も減るという見方もあります。その見方が正しいのならば、安全運転の啓発活動は「交通事故」を減らすことにつながり、脳死臓器移植の推進と反する結果になるのかもしれません。