「改正案」の衆議院本会議での採決をめぐって

あまり指摘される場面に出会わないのですが、現在の「臓器移植法」というのは議員立法でした。「国会」は、三権分立でいうところの「立法府」にあたるわけですが、現在、衆議院に提出されている「議案」のうち、議員提出の法律案の数は、71。それに対して、内閣提出の法律案の数は、86。つまり、国会議員が提出した法律案よりも、内閣が提出した法律案の方が多いわけです。*1
こうした状況にあって、「臓器移植法」の「改正案」については、すべて議員提出法案で4つの「改正案」が提出されているわけです。その上で、それぞれの「改正案」に関して、議論が行われているのです。国会議員が自ら提出した法案について、お互いに主張をぶつけあう、というのは、当たり前のようにも思われますが、「臓器移植法」のほかに、こうした「健全な議論」が行われている法案はあるのでしょうか?
とりあえず、政党主導で対案が提出されたりもしますが、「臓器移植法」のように、自民党民主党の所属議員でも支持する法案が割れるような状況というのは、ひょっとしたら、もっとも「議会」という制度が機能している状況なのかもしれない、なんて思ったりしています。
こうした議論をどのようにまとめてゆくのか。国会議員の「議員力」が問われているのかもしれません。

というわけで、「臓器移植法改正案」について、いよいよ衆議院本会議での採決についての日程が話題になってきました。マスメディアの報道によると、いまのところ、来週16日(火)という可能性が高いようです。


http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2009060902000236.html
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090609/stt0906091927016-n1.htm
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090609dde007010047000c.html
http://www.nhk.or.jp/news/k10013521141000.html

その一方で、16日(火)に衆議院での採決を提案しているのは与党自民党であるのに対して、野党は慎重な議論を求めているという報道もありました。

http://mainichi.jp/select/science/news/20090610k0000m010096000c.html
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090609-OYT1T00939.htm

読売新聞(オンライン)の記事で気になったのは、最後の部分。

与党内でも「採決まで長期間を置くと、関係団体の陳情が激しくなり、好ましくない」と、早期の採決を求める声が強い。

様々な利害が交錯し、多様な陳情が寄せられるなかで、「選択」や「調整」を行うのが国会議員だと思っていたのですが、この記事にある「声」が本当のことだとすると、まるで、「自分(の支持団体?)に都合の悪い情報(陳情)があると、思い通りにならないから、早く採決したい」と言っているように思えてしまいます…

また、毎日新聞(オンライン)の記事にも「過去に使われたことがない」という手法に言及されていたり、いろいろと国会の運営をめぐって、議論があるようです。

いずれにしても、採決に参加できるのは国会議員だけです。議員の方々には、有力議員の圧力や「根回し」などで投票先を決めて欲しくないな、と思っています。

ちなみに、「改正案」として提出されているなかでA案と呼ばれている法案は、現行法の内容を大きく変えるものです。普通に考えれば、そうした「改正案」の採択には慎重になると思うのですが、法案提出者に自民党の重鎮の一人とでも言うべき有力議員がいるので、支持する議員が多いのかな、なんて邪推をしてしまっています。ちなみに、この有力議員は母子二代で、日本の移植に関わる法律に関わっていますね。*2

一説によると、「臓器移植法改正案」が本会議で議論されるのも、今国会の会期を延長したのはいいけれど予算関連法案の審議が終われば、「延長したのに審議すべき法案がなくなる事態」になってしまうからだとか。*3
せっかく「議会」が機能して議論が行われているのに、そんなご都合主義で厚生労働委員会での審議を打ち切って本会議で採決が行われるというのは(移植を待つ患者には希望となるわけですが)、議員力というか、「議会」全体の見識みたいなものを考えると、何とも悲しくなる事態に思えてしまいます…

*1:http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htmを参照。

*2:とりあえず、ネットで読めるものとしては、現在の臓器移植法が成立する過程で、さまざまな「問題提起」を行ってきた移植医が書いたコチラを参照。

*3:次の記事を参照。http://mainichi.jp/select/seiji/archive/news/2009/06/08/20090608ddm003010138000c2.html