代理出産と特別養子縁組

2009年4月22日に複数のメディアが、代理出産により誕生した「子ども」と、代理出産依頼人となった「夫婦」との、特別養子縁組が成立していたことがわかったと報道しました。
報じられていたケースは、生まれつき子宮のない女性の代わりに、その女性の母親が代理出産したというものです。出産した女性を基点にして考えれば、「娘」夫婦と「孫」の特別養子縁組となったものです。いろいろ議論もあるケースでした。

その報道を受けて4月28日付の朝刊各紙などでは、タレントの向井亜紀さんと高田延彦さん夫妻も、昨年3月に代理出産で誕生した「子ども」との特別養子縁組が成立していたことが明らかになった、と報じています。
ちなみに、メディアのニュースソースは向井亜紀さんのブログとのこと。

生殖補助医療(あるいは生殖補助技術 ART)の問題を考える際に、向井さん夫妻のケースはよく授業でも取り上げていたので興味を持った記事でした。さっそく向井さんのブログを読んでみたのですが…
僕は向井さんのブログを、「肩透かし」を喰ったような気持ちで読みました。

それというのも、向井さん夫妻は、アメリカでアメリカ人の女性をホストマザーとする代理出産の契約を結んだ上で、「子ども」の出生届における「母親」の記載をめぐる出生届の不受理について最高裁まで争っていたからです。
向井さんのこだわりは、代理出産してくれた女性の名前を出生届に記載したくない、母親は向井さんであることをきちんと証明したい、そのあたりにあるのかなと思っていました。
このこだわりをちょっと妥協すれば、最高裁まで争わなくとも、特別養子縁組制度を用いることで、戸籍上は「子ども」を「実子」とできるわけですから、何ら問題ない。そう思っていました。だから、それでも最高裁まで争うのだから、ほかに何か意図というか、こだわりがあるのかな、と。

そういうバイアスをもって向井さんのブログを読んでいたら、素直に喜びが綴られており、また、向井さん夫妻がこだわっていたハードルがいとも簡単にクリアできた、とも書かれていました。

法律の専門家でもないし、特別養子縁組制度についても熟知しているわけではないので、軽々しいことは言えないですが、向井さん夫妻の代理出産と裁判は、初めから「裁判で争う」ことが前提になっていたかのような印象を持ったのも事実です。
だから、こうして特別養子縁組によって「子ども」と「親」の双方にとって望ましい形に、「子どもの福祉」を最優先に考慮できる形で落ち着いてよかったな、と思います。
あくまでも「例外」として、ですけれども。

代理母ツーリズム」の存在も報じられる昨今ですが、まずは「生まれてくる子ども」のことを最優先に考えるということが、代理出産を含む生殖補助医療を考える際に重要だと再確認したいと思います。
ただしこれは、「子どもが欲しい」という「親」の欲望よりも、「生まれてくる子ども」のことを優先的に考える、ということも含むわけですから、安易な代理出産肯定論には流れて欲しくないな、とも思います。

いずれにせよ、「法令」や「判例」によって「上」からルールを変えて、例外的な現実にあわせようとすることと、既存の「法令」などのルールを前提として、そのもとで、うまく制度を活用してゆくことと、いろいろと考えさせられる話題でした。