「なぜ、ヘイ・オン・ワイで「古書」を買うのか?」と「医療ツーリズム」

7月発行の『三田社会学』という雑誌の「特集:古書流通から見た地域社会」に拙稿「なぜ、ヘイ・オン・ワイで「古書」を買うのか?」が掲載されました。
これは『神田神保町とヘイ・オン・ワイ―古書とまちづくりの比較社会学』に書かせてもらったコラムと2008年の三田社会学会大会シンポジウムでの口頭発表をもとにして、ゲスト(ツーリスト)の視点で観光地としての「ブックタウン」であるウェールズの「ヘイ・オン・ワイ」を考えたものです。
ウェールズの郊外、ロンドンから車で4時間もかかるヘイ・オン・ワイが、観光地として多くのツーリストを集めているのは、なぜか。ツーリストは、なぜヘイに行くのか。そうした問いを、考えてみました。

この拙稿をまとめるにあたって、改めて国境を越える人々の存在や移動性(モビリティ)に着目した社会学者ジョン・アーリの議論などを参考にしたのですが、「移植ツーリズム」についてもちょっとだけ言及しました。
それというのも、「観光」をめぐる研究のテーマの一つに、ツーリスト(ゲスト)によるホスト社会の搾取という課題があります。ここでは南北問題や環境問題なども背景となっているわけですが、生命倫理の問題として指摘される「移植ツーリズム」や「代理母ツーリズム」は、「生命」や「身体」をめぐって、このツーリストによるホスト社会の搾取という課題をラディカルに浮き彫りにするものだと言えるからです。
「移植ツーリズム」に関しては、「臓器移植法改正」論議に関連して何度か言及してきましたし(5月24日のエントリー6月16日のエントリーなど)、「代理母ツーリズム」についても4月13日のエントリーで触れました。
こうした生命倫理の問題とされる様々なツーリズムを、「ツーリズム研究」の視角から考えれば、人々の移動を喚起するメカニズムの解明や、一度できてしまったツーリズムの構造を排除したり変更することがいかにして可能なのか、という問題系が浮かび上げって来るのかもしれません。
紛争などで海外渡航制限がなされた国や地域にだって赴く人はいるわけです。ましてや、「自分の命」「子どもの命」のため、という思いを強くしている人々の「移動」をゼロにすることなど、現実的なものではないようにも思います。
強者による弱者の搾取、富者による貧者の搾取を生じさせるツーリズムは、「必要悪」なのかどうか。

その一方でツーリズムは、産業の振興策としても注目されています。
経済産業省に設置されていた「サービス・ツーリズム(高度健診医療分野)研究会」は、「研究会とりまとめ」を発表しています。
http://www.meti.go.jp/press/20090804005/20090804005.html
経産省、医療ツーリズム事業化へ検討着手―週刊観光経済新聞
こちらは、主に「裕福な外国人」をターゲットにして、「日本の高度な医療」を観光資源とするものです。「医療観光」とか「医療ツーリズム」あるいは「ヘルス・ツーリズム」と呼ばれるものですが、医療を「サービス産業」として位置づけ、「医療サービス」という言葉が頻出する文書は、何とも不思議な感じがしてしまいます…