「いのち」から現代世界を考える

2008年度前期に慶應義塾大学経済学部で展開された連続講義が、講義録として一冊の本になりました。
高草木光一編『連続講義「いのち」から現代世界を考える』(岩波書店、2009年)です。
岩波書店のサイトでは、大村次郷氏によるカバー写真を見ることができます。
 岩波書店のサイトはこちら→岩波書店
この連続講義は「現代社会史」(春学期集中)として毎週土曜日の2限3限、ときには4限まで使って行われたものです。僕もほぼ毎回(2008年7月12日だけは、学会シンポジウムでの発表と重なってしまったため欠席させてもらいました)、予定質問者として参加させてもらったものです。また、5月17日の第一部討論会では、第一部の議論のまとめとアメリカのバイオエシックスの簡単な歴史についてまとめた講義をさせてもらいました。
とりあえず、この本の目次を見れば、いかに多角的で重厚な講義だったか、その一端でも、わかってもらえるのではないかと思います。

はじめに――高草木光一


第一部 「いのち」をめぐる現在
 生体移植、脳死・臓器移植 ――河野太郎/山口研一郎
 遺伝子操作、生殖医療 ――福岡伸一/迫田朋子
 優生思想と自己決定権 ――長沖暁子/田中智彦


第二部 人類史のなかの「いのち」
 ウイグルの視点、チベットの視点 ――マリア・サキム/小川康
 『医心方』の倫理観、神道の自然観 ――槇佐知子/鎌田東二
 宗教と医学の間 ――島薗進


第三部 「いのち」の同時代史のために
 「いのち」の闇 ――米沢慧/吉岡忍
 揺らぎのなかの「いのち」 ――最首悟立岩真也
 「いのち」の構築 ――芹沢俊介伊勢崎賢治


第四部 座談会
 われわれはいまどんな時代に生きているのか
  ――最首悟島薗進/山口研一郎/高草木光一


フォト・ストーリー「いのち」 大村次郷

臓器移植法改正」論議でもA案提出者として活躍されている河野太郎衆議院議員、『生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)』や『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』の著者として有名な福岡伸一氏、最古の医学書『医心方』の全訳を進めてらっしゃり『医心方の世界―古代の健康法をたずねて』や『日本の古代医術―光源氏が医者にかかるとき (文春新書)』の著書もある槇佐知子氏、あるいはNHKのアナウンサー・解説委員・ディレクターとして多くの番組制作に携わってこられた迫田朋子氏をはじめ、米沢慧氏や吉岡忍氏、芹沢俊介氏、そもそも、この分野に関わる者であれば知らない人はいない、最首悟氏や立岩真也氏、島薗進氏など、お名前を挙げきれない方も含めて、とにかく豪華ラインアップです。そして大村次郷氏の写真も素晴らしいものです。
講義に参加していた者の感想としては、毎回、本当に勉強になった、知識や視野を広げることのできた連続講義でした。残念なのは、この本にまとめられたのは、講義や討論の一部ということ。もちろん、実際の講義での重厚な議論が、紙幅の関係で短くまとめられてしまうのは、致し方ないことかもしれません。それでも本書では、それぞれの議論が分かりやすくまとめられており、講義を聴いただけでは理解できなかった部分も理解しやすくなっています。

本書あるいはこの連続講義は、「同時代史」を構築するために、岡村昭彦と小田実、両氏の思考の軌跡を手がかりにして展開されたものです。「バイオエシックス」や「生命倫理」という専門性の高い領域の研究とは別に、本書のように「いのち」をキーワードにして広い視野、新たな視点から現代世界を考えるという試みは、いまだからこそ読んでもらいたいものです。

連続講義「いのち」から現代世界を考える

連続講義「いのち」から現代世界を考える